ウィリスは、労働者階級に育った若者が自分の親と同じ労働者階級の職業に就くことが極めて多い点に着目し、なぜそのような事態に至るのかという観点から文化的再生産の考察を行なった。
従来の見解では、労働者階級の子どもたちは多くの場合、学業で好成績を収められなかったことを理由に、あるいは将来、自分は高給を得たり高い地位につけることはないと自ら能力を限定することによって、親と同等の職に就くと考えられてきた。そして学校は、知力の面で限界を認めることを教え込み、労働者階級の若者は、劣等性を受け入れることで、労働者階級の職業に就くことを指摘されてきた。
しかし、ウィリスはこの指摘を批判する。たとえ、学業に対して劣等感を持っていたとしても、自らが不成功者であると生涯思わずに、いわゆる下積みの仕事をしている多くの人々がいる。そこには学業以外の何かがあると彼は指摘した。
彼はそこに反学校文化と労働者階級独自の文化を指摘し、若者はそれら文化によって自らの価値観を得、またそれを担っているという。そして、肉体労働への男らしさや、優等生の多くが就くホワイトカラーに対して批判的な価値観を持つことになると指摘する。確かに学業不振は1つの原因ではあるが、労働者階級の人々によって形成された文化の中で育った若者は、望んで労働者階級の職業に就いている者も多いと指摘したのである。